ブックタイトルKentaiNEWSvol218

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概要

KentaiNEWSvol218

07反応経路が、トレーニング刺激によって強く活性化されることがわかりました。さらに、mTORシグナル伝達系を強く活性化するトレーニングほど、最終的な筋肥大効果も高いと考えられています。確かに、細胞の成長に必要な多数のタンパク質についていちいち発注書を作るより、発注書は当初から多めに発行しておき、工場の方を必要に応じて稼働させる方が効率的かもしれません。さらに最近、私たちの研究を含むいくつかの研究から、リボソームの数そのものが筋力トレーニングによって増えることがわかってきました。タンパク質合成工場」リボソームの構造リボソームは、60Sと40Sと呼ばれる大小2つのサブユニットからできている細胞小器官です。その構造と機能を解明したラマクリシュナン博士ら3名の研究者には、2009年にノーベル生理学・医学賞が授与されています。リボソームが活性化すると、これらの2つのサブユニットがmRNAを挟み込むようにして結合し、タンパク質合成がスタートします。60Sは3種のリボソームRNA(rRNA)と49のタンパク質、40SはひとつのrRNAと33のタンパク質からできています。筋線維に含まれるリボソームの量は、rRNAの量を測定することで推定できます。トレーニングによってリボソームの数が増える私たちのグループでは、ラットの協働筋を部分的に切除することで、対象とする筋を10%から50%までの5段階にわたって肥大させる実験系(代償性肥大モデル)を作り、筋肥大の程度と、細胞内のさまざまなプロセスの関係を調べました。その結果、筋肥大の程度に最も強く関連していたのは、リボソームを活性化する反応系ではなく、リボソームそのものの量でした(Nakadaら、2016)。つまり、著しい筋肥大を起こすためには、リボソームの生合成が起こり、その数が増えることが重要なことがわかりました。さらに、Ogasawaraら(2016)は、ラットの筋力トレーニングモデルを用いて、トレーニング刺激によりリボソーム量が増えることを示しました。もう一段」トレーニング効果を高めるには最も新しい研究成果になりますが、小谷らは、リボソームの量が筋力トレーニングの比較的初期に増加し、その後一定値に留まってしまうことを見出しました。トレーニングを開始すると、来たるべきタンパク質の需要増大に備えてまず工場を増設し、次にその稼働を指令するというようなシステムかもしれません。こうしたリボソーム量の変化は、トレーニング効果そのものの現れ方とよく似ています。すなわち、トレーニングを続けていくうちに、次第に刺激への「慣れ」が生じ、伸びが見られなくなるという現象です。ここで再び、リボソームの生合成を上手く刺激できれば、もう一段上のレベルに向かって伸ばすことが期待できるでしょう。リボソームの生合成には多量のrRNAが必要で、その調節は主に前述の転写過程で行われていますが、詳細はあまりよくわかっていません。20年以上前の研究に逆戻りするようですが、原ガン遺伝子がこの過程に重要な役割を果たす可能性も再浮上してきています。どのようなトレーニングがリボソーム生合成を刺激するのかは今後、「一歩上を行く」トレーニング方法を開発するために重要な研究テーマになると考えています。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)「「2017.02.21 19:28:48