ブックタイトルKentaiNEWSvol219

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概要

KentaiNEWSvol219

石井直方いしい・なおかた●昭和30年東京都生まれ/ボディビル1981・1983年ミスター日本優勝、1982年IFBBミスターアジア優勝/現在東京大学大学院教授(運動生理学、トレーニング科学)、理学博士06昨年、大隅良典博士がオートファジーの研究でノーベル生理学・医学賞を受賞したことはまだ記憶に新しいと思います。オートファジーには細胞の中で古くなったり、不要になったりしたタンパク質を分解するという、「ゴミ掃除係」の役割があり、その機能が低下すると、パーキンソン病やガンなどの発症につながることが分かってきています。筋肉におけるオートファジーの役割についての研究はまだ少ないのが現状ですが、2016年にはサルコペニア(加齢に伴う筋萎縮と筋力低下)とオートファジーの関係についてのきわめて興味深い研究がNatureに報告されました。タンパク質分解の3経路タンパク質を分解する経路には大きく、カルパイン系、ユビキチン・プロテアソーム系、オートファジーの3つがあります。カルパイン系は、細胞質中にあるカルパインというタンパク質分解酵素が、細胞内カルシウム濃度の上昇によって活性化することでタンパク質分解が起こります。ユビキチン・プロテアソーム系では、まず不要になったタンパク質にユビキチンが結合し(ユビキチン化:廃棄処分のためのタグのようなもの)、これを「プロテアソーム」という小器官が分解します。オートファジーでは、まず不要なタンパク質(多くの場合ユビキチン化されている)や機能不全に陥ったミトコンドリアなどが膜によって包み込まれて、オートファゴソームという構造をつくります。そこに、リソソームというタンパク質分解酵素を含んだ小胞が融合し、オートファゴソーム内でタンパク質の分解が起こります。前回ご紹介したリボソームは細胞内の「タンパク質合成工場」、プロテアソームやオートファゴソームは、「タンパク質分解施設」といえるでしょう。トレーニングとタンパク質の合成・分解トレーニングによって筋線維が肥大する際には、筋線維内でのタンパク質合成がタンパク質分解を上回り、タンパク質が蓄積します。ただ、1回のトレーニング刺激に対する筋の反応はそれほど単純ではありません。トレーニング中や直後にはまずタンパク質分解が一時的に上昇しますが、その後タンパク質合成が大きく上昇し、逆にタンパク質分解が低下します。トレーニング中にタンパク質分解が亢進するのは、運動によって一時的に「エネルギー不足」に近い状況になるためと考えられています。前回、リボソームにおけるタンパク質合成を活性化する反応経路として、「mTORシグナル伝達系」をご紹介しましたが、この反応経路は同時に、ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジーの両方でのタンパク質分解を抑えるはたらきがあります。細胞内がエネルギー不足の状態になると、このmTOR系が抑制され、タンパク質分解の抑制が低減することで分解が亢進すると考えられます。タンパク質合成が「オン」になると、同時にタンパク質分解が「オフ」になり、タンパク質合成が「オフ」になると、タンパク質分解が「オン」になるという仕組みです。116オートファジーと筋の肥大・萎縮