ブックタイトルKentaiNEWSvol219

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概要

KentaiNEWSvol219

07筋萎縮とタンパク質分解不活動、栄養失調、ガンなどの疾病によって急速な筋萎縮が起こりますが、このような場合にはタンパク質の合成と分解はどのようになっているのでしょうか。これまでの多くの研究から、タンパク質の合成はあまり低下せず、タンパク質分解が持続的に亢進することによって筋萎縮が進むとされています。上の3つの経路がそれぞれどのようにはたらいているのかはよくわかっていませんが、細胞内カルシウム濃度のわずかな上昇に伴って活性化したカルパインが、Z膜やサルコメア構造を断片化し、断片化した収縮タンパク質がさらにユビキチン・プロテアソーム系やオートファジーによって分解されると考えられています。サルコペニアとオートファジー一方、サルコペニアの場合には、比較的長期間にわたって萎縮が進行する点で、不活動などによる筋萎縮とは異なる仕組みがはたらいていると思われます。これに関連して、Garcia-Pratら(2016)がきわめて興味深い研究結果をNatureに報告しました。彼女らは、若いマウスと老齢マウスから筋線維の幹細胞である筋サテライト細胞を採取し、?老齢マウスの細胞では、再生能などの幹細胞としての機能が低下し「細胞老化」の状態になっていること、?老化した細胞ではオートファジーの活性が低下していること、?老化した細胞に、前述のmTORシグナル伝達系を阻害するラパマイシンを与えると、オートファジーの活性が回復し、増殖・筋再生機能も若返ること、?オートファジーの過程に必要なAtg7というタンパク質を欠損したマウスでは、細胞老化、筋再生能の低下、筋萎縮などが早期のうちから起こること、などを示しました。筋サテライト細胞のはたらきについては、このコラムでも何度かご紹介してきましたが、筋線維に外部から新たな核を供給することで、筋線維の肥大やサイズの維持に関わっています。Garcia-Pratらの研究は、この筋サテライト細胞が、オートファジーの活性低下により老化することがサルコペニアの原因の一つであることを示唆しています。筋肉づくりへのヒント前記の研究では、「老化」した筋サテライト細胞を、オートファジーの再活性化により「若返らせる」ことができた点が重要です。このことは、筋サテライト細胞が繰り返し活性化した結果、不可逆的に「細胞寿命」に至ったということではないことを示唆しています。むしろ、長期的な不活性状態の結果である可能性があります。オートファジーを活性化する刺激のひとつは「エネルギー需要の増大」ですので、筋サテライト細胞の「弾切れ」を恐れることなく、その増殖を促すような強めの運動・トレーニングを適宜行うことが、サルコペニアの予防にも効果的ではないかと思われます。一方、筋線維内でのタンパク質の「品質管理」という観点では、トレーニング直後のタンパク質分解の一時的な亢進は、避けるべきものではなく、むしろ重要なプロセスと捉えるべきかもしれません。大きな筋肥大効果を得るためには、トレーニング強度だけでなくトレーニング容量(エネルギー消費量)が重要であり、ドロップセット法やホリスティック法など、「エネルギー消耗型」のトレーニングが効果的ですが、その仕組みには意外にもタンパク質分解が関わっているかもしれません。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)