ブックタイトルKentaiNEWSvol224

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概要

KentaiNEWSvol224

07バズーカ岡田の筋肉学ご存じですか?「8020運動」 8020運動とは「80歳になっても20本以上、自分の歯を保とう」というスローガンから生まれた言葉です。残存指数が約20本あれば、食品の咀嚼が容易で、食生活にほぼ満足することができる、という考えから制定されたそうです。そこから当時の日本人の平均寿命である80歳で20本の歯を残すという運動が始まったとされています。 8020達成者は、非達成者よりも生活の質(Q0L)を良好に保ち、社会活動意欲があるという調査結果や、残っている歯の本数が多いほど寿命が長いという調査結果も出ているそうです。なかには65歳以上の住民を3、4年間追求した研究において、歯がより多く残っている人、また歯が残っていなくても義歯等を入れている人というのは、歯があまり残っていない人、また義歯等を入れていない人と比較して、年齢、治療中の病気や生活習慣などを加味せずとも、転倒の危険性や、のちの認知症発症率が低いということがわかった、という結果がありました。 強く噛み締めることで筋肉の緊張が高まったり(出力が上がる)、噛み締めないことで筋肉の緊張を緩めて滑らかな動きをするなど、噛み締めることと動きの調整は関連すると指摘されています。専門分野ではないため憶測の域を越えませんが、歯を噛み合わせることで顎の骨に対して圧がかかり、感知されたその圧や、さらには噛み締める筋肉の活動そのものが他の筋肉の出力をコントロールしている可能性があります。いずれにせよ、歯と心身の健康との関わり合いは深い、ということが見えてきました。「筋肉学」と銘打ちながら、歯と健康の話になってしまいました。しかし「いいカラダ」とは、健康体の上にこそ成り立つもの。筋肉と真剣に向き合えば向き合うほど、すこやかであることの重要性をヒシヒシと感じるようになるのです。噛まない食事は、カラダを「通過」させるだけ さて、歯そのものの話から、咀嚼の話に戻りましょう。トレーニーの間で、良質な脂質が手軽に摂れると人気の「ナッツ」。カバンに潜めて、間食として口にしている人を見かけます。その、ナッツのような硬い食材をよく噛んで食べたグループと、あまり噛まずに食べたグループとに分けて、それぞれの便を採取し調べたところ…… あまり噛まずに食べたグループから出た便のほうが、エネルギー量が高かったという研究結果を読んだことがあります。 言われてみれば「そりゃそうだろう」となるわけですが、結構な盲点だなと思いました。硬い食べ物に関しては、まず歯で粉砕をしなければ、吸収のステップまで辿りつけません。消化酵素だけでは太刀打ちができず、カラダのなかを通過して終わります。 タンパク質量がどうとか、栄養バランスがどうとか、たくさんのことを考えて食事をしても、咀嚼を怠れば何も残らない。食べ損以外の、なにものでもありませんね。硬い食べ物以外にも、とうもろこしやミニトマトといった薄皮(食物繊維)で包まれている野菜に関しても、同じことが言えるでしょう。 はじめに「同じものを食べてもよく咀嚼したほうが、痩せやすくなる」と書きました。同じ理論で「同じものを食べてもよく咀嚼したほうが、筋肉が育ちやすくなる」と言えるかもしれませんね。歯学教育 × ボディビルダーの可能性「噛む」という行為の重要性に気づいたとき、私は思いました。どうして、こんなにも咀嚼が大切だということを、もっともっと小さなときに、学ぶ機会を得なかったのだろう。いや、もしかしたらあったのかもしれないが、正直、白衣を着込んだ方に「よく噛みましょうね?」言われても、私の心には響かない。 もしも、ボディビルダー合戸孝二選手が特別講師としてやってきていたら。「俺たちは、筋肉を1ミリ大きくするために、1口あたり30回を全力で噛んでいるんだ!」と、全力&本気のメッセージを届けてくれていたとしたら、と――。 というわけで、これをお読みの方のなかにもしも歯学教育関係の方がいらっしゃいましたら、これを機に、歯学教育にボディビルダーの起用をお考えいただければ幸いです。!?岡田 隆 (おかだ たかし)19 8 0年愛知県生まれ/東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得満期退学/日本体育大学大学院体育科学研究科修了/理学療法士/日本体育協会公認アスレティックトレーナー/現在は日本体育大学准教授/ボディビルダーとしても活躍しており、2 0 16 年日本社会人ボディビル選手権で優勝Mitsuru Okabec