ブックタイトルKentaiNEWSvol228

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概要

KentaiNEWSvol228

09 バズーカ岡田の筋肉学てからこう言いました。「雨こそチャンスです」と。雨が降ると、どうしても心が折れがちですが、それは敵軍も同じ。つまりは、相手の意表を突く絶好のチャンスなんです、と。隣で監督も続けました。この荒天は「神様からのプレゼント」だと。「雨が降ったら敵の士気も下がるでしょ」そんな一般論はここでは通用しません。 ふたりの言葉に、一瞬で目が覚めました。が、だからと言って心が一瞬で成長するわけはなく、1泊2日の訓練のなかでなんども心は折れかけました。はじめの訓練は、11メートルの鉄塔からワイヤーを装着して飛び降りるというもの。聞けば、11メートルというのが人間が最もリアルに恐怖を感じる高さなのだそう。 訓練に参加するのは、もちろん選手だけではありません。コーチ陣も監督も、全員参加ですから当然私も飛び降りました。上がってみると下から見るのとは大違い。足がすくみましたが、育てたいのはこういった恐怖心に打ち勝とうとする心の強さです。ストレスを楽しめ! 柔道(に限らず、格闘技や武道)の世界大会や五輪では文化も思考も生活様式も環境もすべてが違う相手と、1対1で対峙します。それは相手選手だけではなく審判も、全く馴染みのない国の出身である可能性が高いです。どちらがいい、どちらが悪いという話ではなく、文化の違いは思考の違いを生みますから、通常の練習環境で積んできた経験では太刀打ちできないようなことが起こります。 実際に起こった場合、本当にちょっとしたことであったとしても、どうしても「一時的な思考停止」が起こります。何が起こっているか理解できない、自分の都合がよい状況にしようと抗議してしまう。つまりは、気のゆるみ、甘え。相手に攻め込む隙を与えてしまうことになるわけです。いかなるときも己の作戦を効果的に実行するためには、異常事態を前にして「立ち止まらない」訓練が必要なのです。高所は得意ではありませんが、恐怖を感じるその前に、一歩を踏み出し11メートルからダイブしてまいりました。 続く1周300メートルの障害走では、泥々の土の上をほふく前進。姿勢を少しでも低くするために、頭や顔まで泥々にしてやり切りました。そうして訓練を終え、雨に打たれ続けたカラダをようやく休めることができるな、と思っても、寝床の部屋は集団で寝る大部屋です。普段、合宿で宿舎としてお借りしている環境がいかに整えられたものなのか、改めて実感させられるのと同時に、自分のカラダがなんとなく野生モードに入るような、そのような不思議な感覚を得ながらその日は就寝……したのもつかの間。 突然森に入り、生存自活の訓練がスタートです。生存自活とは、任務を完遂するためにいかなる状況でも一定期間山野に潜伏し、そこで「生存」するために「自活」する術を習得するためのものとのことでした。食事は、森のなかで皆で米を炊きました。 あたり前ですが、その世界では「PFCバランス」などという概念は通用しません。3時間ごとにタンパク質を補給するとか、ここぞ!のタイミングでサプリメントを飲むことなど不可能です。トレーニングだって思い通りになりません。はっきり言って、環境としてはストレス以外のものではないのです。そんなとき、自衛隊員の方がこうおっしゃいました。「ストレスを楽しんでください」と。私の心は、再びハッとしました。思考の停止が、成長を阻害する 常に整えられ、慣れ親しんだ環境でトレーニングをしつづけていると、例えばメンテナンス日でジムが休みになったり、お気に入りのマシンが故障していたりすると、その瞬間にドッとストレスを感じます。人によっては「もう終わった」「今日はもうダメだ」とまで、精神状態が下がります。でも、本当にそうなのでしょうか。 そもそも、筋トレという行為自体がカラダにとってはストレスのはず。普段、自ら喜んで自分にストレスを課しているというのに、想定外のものがちょっと顔を出しただけで、瞬間的に負けてしまうというのはどうなのでしょうか。筋トレをして、筋肉やカラダは強くなっているのかもしれないけれど、心は全く鍛えられていない証拠ですよね。「行きつけのジムじゃなきゃ、気持ちよくトレーニングできない」とか「このマシンじゃないと効かない」という声が、時々聞こえてくるのですが、それこそ思考停止なのではないかと思うのです。 気づいてください。ほかのジムでは、本当に何もできないのか? ほかのマシンでは、ダンベルひとつでは本当に追い込むことができないのか? あともう一歩を踏み込む勇気が、あなたの成長を阻害しているということに。いつも効いている部位に効かない、と感じるのは、もしかするといつもとは違うまだまだ感度が低い部位に効いているのかもしれません。 新しい環境に身を置くと、普段の生活では見えてこないことが手に取るようにわかるものです。今回の体験入隊で私自身、心の弱さとなんども対峙しましたが、それと同時に成長させる術を身につけることができたとも感じています。いつもと違う、を選択するには勇気がいります。しかし、選んだ先には気づきしかない。そう考えたら選んでみたくなりませんか?  次回は、この続きとして現在私自身が大学院生とともに取り組んでいる「効かせる」に関する研究についても少しご紹介したいと思います。「この部位の効きが悪い」そう感じて、諦めていることはありませんか? 皆さんが諦める事がないよう、皆さんの成長をデータで助けるのも研究者の務めです。自衛隊訓練は研究者向けではありませんでしたね(笑)何はともあれ、今回の体験入隊は刺激に溢れていました。少し前から大人の遠足なるものが流行っていますが、さしずめ大人すぎる遠足ですね!では。Mitsuru Okabec