ブックタイトルKentaiNEWSvol208

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概要

KentaiNEWSvol208

維自身と筋サテライト細胞の両方に作用して上記の3つの過程を活性化します。次に、マイオスタチン(ミオスタチン)。これは筋線維から常時分泌されますが、IGF-1とは全く逆に、上の3つの過程を強く抑制します。すなわち、筋が過剰に肥大することのないように抑えているタンパク質です。マイオスタチンが筋のサイズに及ぼす影響はとても強く、遺伝的変異によってマイオスタチンをつくることのできない個体は「筋倍加変異」と呼ばれ、恐ろしいほど「筋肉モリモリ」になります。ウシやイヌの例がマスコミなどで取り上げられていて有名です。また、トレーニングを行うと、筋の中でのマイオスタチンの量が一過的に減少し、上の3つの過程の抑制がはずれて活性化します。フォリスタチンの遺伝子導入による驚異的な筋肥大筋への体細胞遺伝子導入として最初に報告された研究は、Barton-Daviesら( 1998)による、マウス骨格筋へのIGF-1遺伝子の導入です。この研究は、以前のコラムで詳述しましたが、遺伝子ドーピングの可能性を提示した最初の研究といえます。一方、筋サイズにより大きな影響を及ぼすマイオスタチンについてはどうでしょうか。問題は、遺伝子導入ではマイオスタチンの発現量を増やすことはできても、逆に低減させることは困難ということです。そこで考えられたのがフォリスタチンというタンパク質です。フォリスタチンは、マイオスタチンに結合し、その活性を抑えることで、筋肥大をもたらします(筋肥大の抑制の抑制)。このフォリスタチンの遺伝子を筋に導入する研究が、Kotaら(2009 )によって移植医学系の学会誌に報告されました。彼らは、ヒトのフォリスタチン遺伝子にサイトメガロウイルスという増殖能の高いウイルスのプロモーターをつなぎ、それをさらにアデノウイルスの遺伝子に挿入して、アカゲザルの大腿四頭筋に注射しました。5ヶ月後、遺伝子を導入した筋は、導入していない反対側の筋に比べて、周囲長で約25%(横断面積換算で約60%)肥大し、筋力では70%以上も増加しました。写真で見ても、驚異的といえる肥大です。筋線維では、速筋線維に著しい肥大が見られ、筋力トレーニングと同様の効果とみなすことができます。また、これらの効果は、遺伝子を導入した筋にのみ生じますので、この技術を使えば、簡単に「好みのボディ」をデザインできるといえるでしょう。どうしても検出できない?この論文を見て蒼くなったのは世界アンチドーピング機構でしょう。サルで成功していることは、ヒトでも即実施可能であることを示唆しているからです。さらに問題なのは、遺伝子操作の基礎技術があれば、どこでもできてしまうことです。そのため、遺伝子導入の痕跡を、血液検査で検出できないかという研究が急ピッチで行われてきています。しかし現状では「不可能」という結果ばかりです。バイオプシーを採って遺伝子解析を行えば、外来遺伝子の証拠を見いだすことは可能ですが、スポーツの現場では実行不可能でしょう。もし遺伝子ドーピングが行われれば、その時点でトップレベルのスポーツはその価値を完全に消失すると断言できます。そうなるか否かは、スポーツに関わる人々の良識に委ねられているといえます。究極のトレーニング最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり「スポーツ生理学」が本になりました。過去のケンタイニュースに掲載された原稿に加筆修正を行い、再編集されています。講談社より好評発売中です。石井直方講談社1,600円(税別)09